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■326■ 7月1日 2004

「ねずみ取り」  
 

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もしかすると、いるかもしれないという疑問が現実となりました。「ネズミ」です。

 この家は4階建てに相当するメゾネット形式ですので、屋上までは相当の高さになるのですが(約10メートル)、一番上の部屋は家人の居室になっていて、その天井付近で「チュ」というネズミの鳴き声のような音を聞いたといいますし、先日前庭の芝生の上を走りさる小動物を目撃していますし、何かが我が家に住み着いているとうことは想像できましたが、今時ネズミとは信じられません。

 と、いうのも、この家に引っ越してきてから、2ヶ月に1回の割合でペストコントロールを頼んでいるし、最初はたくさん死んでいたゴキブリも、最近ではかなり少なくなってきており、先月のペストコントロール後は、ゴキブリの死骸をみるこ とはありませんでした。だからネズミなど近寄れないと過信していました。

 チェンマイは少し郊外に出ると、田園風景が広がる地方都市ですし、町中ものんびりとした風情で、田舎街といってよい位の大きさですので、ネズミの1匹や2 匹がいても不思議ではないのですが、我が家にそれが住みついているとなると、呑気に構えてはおれません。

ネズミ捕り大作戦_d0147083_2047023.jpg 大体タイの家は、作りが大雑把というか、細かいところに神経を使わないというか、おおらかな作りで、部屋なども、真四角でなく、ベッドを壁にくっつけるとかならず片一方に隙間が空くという案配です。これは、香港時代にも経験したことで、見た目はまっすぐな壁際の直線でも、家具をおくと湾曲していることが判明したりして、苦笑することがありました。日本家屋の様に、何枚もの畳をぴたりとあわせて入れるという器用さは、ここでは望むべくもありません。だから、家中が隙間だらけということになり、外壁なども、後からやった水周りの工事用にあけた穴などを、ちゃんと埋めてないので、そのあたりから、ネズ候が自由往来を決め込んでいた形跡 があります。

 日曜大工は好きな方ですが、前住地、香港ではその腕を発揮する機会がありませんでした。この地に移り住んでからは、十二分に腕を発揮する機会があります。家が大雑把に作られている上に、大家が全くメンテナンスをしていないので、ドゥ・イット・ユアセルフの腕を駆使する機会が多く、退職後の時間を退屈なく過ごせ ます。それに最近できた「Home Pro」という住まいの大型店が、いろいろなパーツを売っていますので、町中の個人商店に行って、不自由なタイ語で、意思の疎通を図る必要がなくなり、その分材 料も簡単に手にはいります。この「Home pro」は優れもので、大型スーパー、カーフに併設されていますが、センスのある家具や、調度に混じって、建築材料を幅広く取り扱っており、水道の蛇口など、パッキンが緩んで水が止まらない箇所を発見した機会に、モダンなものに取り替えました。ちょっとした変化ですが、毎朝の洗顔が実フレッシュな気分になります。

ネズミ捕り大作戦_d0147083_20475534.jpg まず穴を塞ぐことにしました。天井の石膏ボードの不要な穴は、新しいボードを買い求め、下に重ねて塞ぎました。壁にあけられた水道管の周りの穴も、コンクリートで完全に塞ぎました。そうして2、3日たつと、我が家にネズミがいるのではという不安が、現実のものになりました。一階のキッチンに隣接した女中部屋は、現在倉庫と、食料品貯蔵庫に使っているのですが、そこにおいてあったタイ製のカップヌードルが、やられました。すべての穴が塞がれたため、自由往来が不可能になり、食品貯蔵庫の食べ物に手を付けたことになります。しかし、先日香港の友人が持てきてくれた日本製のインスタントヌードルに手を付けないのは、このネズミもタイ生まれで、タイ製の味が好みだと言う証拠で、ちょっと微笑ましくなります。

 このネズミ、従前は家の中をかなり自由奔放に走り回っていたようで、ネズミの存在を疑いだしたのが、4階の家人の居室で鳴き声を聞いたというのがはじめ、2階の居間のテレビラックの上の置物が落下しているのを発見して、ますますその存在が現実味を帯びてき、インスタントラーメンが齧られているのを発見し た段階で、確信するに至りました。10メートルの高低差を行き来していたことになります。

 早速のネズミ退治といっても、金網製のねずみ取りくらいしか思いつかないので、チョータナーという建築材料や金属製品、針金などを売っている店が軒を連ねている町に出かけました。香港でも、こんな街があります、「五金屋」が集まった街です。五金とは、5つの違った金属を扱いますという意味です。つまり金属製 品の専門店。ネズミみ取りはタイ語でガップ・ダック・ヌゥ(kap dak nuu)と言います。店主に尋ねると、あさりとマイミーと言われました。「どこで売っているのでしょうか」というこちらの質問に、近くのスーパーマーケットにあるはずだと言う返事です。このスーパーは、半月に一回買い物に出かけているのですが、今までねずみ取りを見たことがありません。バーベキュー用の炭など を置いてあるコーナーを、丹念に探しましたが見つけることが出来ませんでした。

(注)
kap= 捕まえる dak=罠を仕掛ける、待ち伏せする nuu=ネズミ


 困り果てて、一時は、薬局へ行って毒薬でも買い求めてみようかと考えましたが、それもかなわずあきらめかけていた矢先、一つのアイデアがひらめきました。契約しているペストコントロールは、この道の専門家だということに気づいたのです。早速電話を入れました。それも多少大げさに・・・・。映画「ゴーストバスター」さながらに、早速社長自らがお出ましになりました。でも手元に下げているビニール袋は、ぺちゃんこです。金網製のネズミ取りなど持参した様子がありませ ん。

 ことの真相は後になって判明、大笑いです。子供のとき見たねずみ取りなど、今ではチェンッマイでも、かなりの時代遅れで誰も使わないとのことです。社長が下げてきたピニール袋の中身は、プラスチックの黒いお盆が2枚、それに、中サイズの缶が1個です。何か缶のふたを開けるものはないかと、自分で台所にあった料理用はさみを取り上げ使いだします。この缶の中身は、ポイズンだと信じきっているので慌ててドライバーを差し出しましたが、こちらの懸念を察したか、これは毒ではありませんとのお言葉。中から出てきたのはグルー、それを付属のスプーンでお盆にたらしながら、起用に塗り付けていきます。何事が始まるのかと興味が一段と増 します。

 既成概念とは恐ろしいものだと、この時ほど思い知らされた瞬間がありません。ネズミを捕るには針金で出来たかご状のものか、バネ仕掛けの装置が板に取り付 けられているもの、その他では、毒性の強いネズミまんじゅうと信じきっている身にとっては、一体何が始まるのか理解できません。中心部を残してきれいにグルーを塗り終えて「ビスケットがありませんか」との問いかけに、ことの全容が理解できました。最新式のねずみ取りは、鳥餅状のグルーで動けなくして捕まえる方法だったのです。いってみれば「ゴキブリホ イホイ」の大型版です。

 これで2、3日したら、ネズミを確実に捕らえることが出来ますよ、とペストコントロールの社長は帰っていきました。さてその翌日、所用で、朝一番の飛行でバンコクに出かけなければならないサキさんが、早朝台所におりて行くと、いました、いました。体調10センチ位のネズミです。急に電気をつけたので面食らったのか、きょとんとしています。しばし、お互いに目と目とがにらめっこ状態になりました。近くにあった新聞紙を丸めてたたきつぶそうとしたサキさんの行為は、こきぶり退治の姿勢。ネズ公の方はどうこの急場から逃げ仰せようかと、しばし、思案している様子です。時、数刻、ネズ公の選んだ選択枝は、空中を飛び越えて隣の食料倉 庫に逃げ込む作戦でした。

 台所と食品庫を隔てる窓には、ガラスが入っていないで、その代わりブラインドが下がっているだけです。高さ約1メートル、現在乗っかっているテーブルの高さ70センチ。このテーブルからブラインドの窓までの距離50センチ。この幅を、大胆に空中飛翔を試みたのです。ネズミが空中を飛ぶのを見たのはこれが初め て。勇をこして試したこの逃避行、見事にはずれで、あわれネズ公は窓枠に激突、試みは失敗に終わりました。当方も新聞紙以外にこれという捕獲道具を持っていないとなると、ネズ公がどこに逃げ込むかを注視する位しかこの場の方策はありません。

 空中飛翔に失敗したネズ公は、テーブルの下に隠れてしまいました。再び時しばし、捕獲をあきらめて裏庭に逃がす作戦に変更しました。ここで家人が起きてきましたので、ことの顛末を話して、多分ネズミは外へ逃げた様だと伝えました。ここでサキさんの時間がいっぱいになりました。朝一番のバンコク行きの飛行機は7時出発です。

 ネズミは、見事捕まえたとの報告を受けたのは、1泊で出かけたバンコックから帰宅した翌日の夜のことです。

 前日の場面を引き継いだのだが、家人が考えるに、サキさんがやり残して行った状況は、ネズミ捕獲作戦としては最低、第一ネズミの習性を知らなさすぎると言う。ネズミは決して明るい方には逃げて行かないものだ。空中飛翔をしたということは、ペストコントロールの社長が仕掛けて行ったネズミ取りを置いてある場所が不適当。床ではなく、食料を貯蔵してあるカートンボックスの上に仕掛けるべきだ。以上の考察から、ねずみ取りのお盆をカートンの上に置き直して一晩待っ事にしたとのことです。試み見事に的中。翌朝期待に胸膨らませてのぞいてみるに、小さな声で鳴くネズミの声が聞こえるではありませんか。しかし、仕掛けたお盆は床に落下しています。あんな強力なグルーが床にくっ付いた日には、はがすのが大変と近づくと、危惧はあたっていないで、お盆は上向きに床にあります。中 心に仕掛けたビスケットは既になく、お盆のグルーに半身を捕らえられて、身動きできないネズミはまだ生きています。

 プラスチックのお盆の縁は見事に齧られつくして、360度ギザギザです。ここからは家人の推測。このネズミはかなり用心深いと見えて、最初から大胆にビスケットを狙ったのではなく、用心深く、お盆を齧ってビスケットに近づこうとした形跡あり。しかし、試みが不首尾に終わり、いつまでたってもビスケットにあり つけないのに短気を起こし、ついにビスケットめがけて飛んだはず。口はビスケットを捕らえたが、あわれグルーに半身をとられて身動きできなくなってしまった。それでも、ビスケットは平らげているのは、かなり腹を空かせていた証拠。では豊富にある食料を狙えばよい、と言えば、ことは簡単だが、人間の食べ物を狙うのは、あまりに危険 な行為と考え、食事は、今までは自由に出入りできた穴を使って戸外に出、近くのゴミ集積所の生ゴミをあさっていた。

 しかし、その穴や、天井の穴が完全に塞がれてしまった結果、外出ままならず、空腹に耐えかねて、ついに人間様のカップヌードルに手を出してしまった。結果としてはこれが命取り、逃げ場所は完全に塞がれ、しばらくすると何やら仕掛けられたビスケット発見。用心に用心を重ね、考察に考察を重ね、これは中心部に飛び乗ってビスケットだけを失敬すればいいのだと、空調飛翔を試みた結果、志かなわず落下、グルー地獄にはまってしまったのだとのだという。その後このグルーをかじりとって、脱出を試みるも、成功おぼつか なく力つきた様です。

ネズミ捕り大作戦_d0147083_20483792.jpg いやはや、その後、どんな方法でネズ公をご昇天させたのかの件を早く聞きたいのですが、家人の証言はまだ続きます。発見当時は、力なく小さな声で泣いていたネズ公、近づくと身の危険を察したのか、大声でキイキイと泣き叫びます。身動きできなくなったのをよく観察すると、サキさんの目撃したサイズより大きく見えたとのことです。昇天させるには、子供のとき仕入れた知識を思い出し、バケツに水を張り、般若心経を唱、中で水死させたとのことです。

 かなり勇気がいる行為だと思われますが、我が家では、こんな場面では家人の方が力を発揮する場面が多く、子供が小さかったとき、鼻の穴にビーズを入れてしまって、それがどうしても取れなくなってしまった場面で、サキさんは病院にいくことを提案しましたが、まてまてと、観察眼鋭く、ピンセットで一気呵成に見事取り出したことがあり、子供が大けがをした場面でも、あいにく外国ロケに出ていて不在のサキさんに代わって、一人で病院の手配などしたと言うし、大事なときには、家にいないで全く 頼りにならないというのが我が家のサキさんに対する定見となってしまっています。

 家族から実に頼りなく見られているサキさんですが、それにしても、このネズミ退治の最終場面には立ち会ってみたかった。願わくは、ネズミが罠にかかるのがもう一日遅かったならば、この汚名、挽回できたのにと悔やんでも、それは詮無いことのようです。こうしてネズミ退治の騒動は終了しました。めでたし、めでたし。
# by newsaki | 2004-07-01 20:43 | 2004